スマート農業(1)‐ 最先端の技術で農業がIT化?

2017年8月に3号機が打ち上げられた日本版GPS衛星「みちびき」の活用事例として “ 農機のロボット化 ” が挙げられているように、スマート農業は注目度を高めている業界です。
※農機のロボット化=耕作用機械の自動走行をはじめとした農作業の自動化

実際に、矢野経済研究所が2016年に発表した推計では、スマート農業の市場規模は2016年度の110億4,800万円から、2022年度には331億8,600万円まで、約3倍に拡大すると予測されています。

なお、スマート農業の定義は下記の通りです。

“スマート農業とは、従来からの農業技術とロボット技術や ICT 等の先端技術を連携させることで、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業であり、農業の生産から販売まで先端技術を活用し、高い農業生産性やコスト削減、食の安全性や労働の安全等を実現するものである。” (出典※1)

この連載では、具体的にどのような取り組みが行われているのかを把握するため、数回に分けてスマート農業について取り上げて行きたいと思います。

第1回の本稿では、理解を深めるための前提として、日本の農業を取り巻く状況とスマート農業の発展を支える技術的要因を確認します。

日本の農業を取り巻く状況

2014年12月9日に農林水産委員会調査室から発表されている資料では、「我が国の農業をめぐる状況」として、以下の記載があります。

“ 我が国の農業では、農業者の減少と高齢化の進行が水路等の農業生産基盤の維持を困難にし、耕作放棄地の拡大が進む要因の一つとなっている。また、熟練農業者の経験と勘に基づく農業生産技術が喪失してしまう危機を迎えている。” (出典※2)

また、同資料では、日本の気候の特性にも触れております。

“ 我が国は多様な気候や土壌をもち、その特性に応じた様々な農業が行われてきたが、我が国の農業では、これまで各地域の熟練した農業者の持つ経験や勘が重要な役割を果たしてきた。” (出典※2)

上記の課題に加え、戦後の農地改革によって農地の所有権は分散しており、近年集約が進みつつあるものの飛び地が多く、効率化が進みづらい、という問題も存在します。

日本の農業を取り巻く状況を下図にまとめました。

スマート農業を支える技術的要因

次に、スマート農業が発展した背景には、どのような技術的要因があるのかを考えます。

1.センサーの小型化・低消費電力化・低価格化

センサーは天候や気温、土壌成分などを把握するために必要不可欠で、データを用いたスマート農業を活用する上で基本となる機器です。

農地では電源の確保が難しく、また、現金収入の少ない農家にとって大規模な投資は負担が大きいため、センサーの低消費電力化・低価格化はスマート農業が発展する上で欠かせない要素です。

平成27年に総務省のセミナーに用いられている資料(出典※3)では、2000年から2010年の間にセンサーの消費電力は半分、価格は1/4以下に下がった、というデータが示されています。

2.無線ネットワーク技術の発達

スマート農業では、センサーで収集した情報を集約し分析するために、リアルタイムにデータを送信する必要があります。

データを送信する環境を整えるためとはいっても、農地に大量の有線LANを敷設する訳にはいきませんでした。しかし、無線ネットワーク技術の発達・普及により、容易にセンサーで収集した情報の活用できる環境が整いました。

3.ビッグデータ活用環境の整備

クラウドコンピューティングの登場により、収集したデータの集約に必要なリソースを確保するコストや、分析に要する処理能力の調達コストが下がりました。

農業は、天候や土壌成分など刻々と変化する多様なデータを取り扱う必要がありますが、データ集約と処理能力を低コストで調達できるようになったことで、データを活用して最適な作業内容などを導けるようになる可能性が生まれました。

4.SaaSによるシステム導入費の削減

現金収入の少ない小規模な農家にとって、多大な初期投資をかけても確実な効果が見込めない「システム導入」は、コスト面から取り組みづらい部分がありましたが、農業用のSaaSが登場したことにより、投資は利用した分だけで済むようになり、システム導入のハードルが下がりました。

また、タブレットやスマートフォンが普及したことにより、農場でもインターネットを通じてシステムを利用出来るようになったことも、システム導入を促す要因となっています。

5.ロボットやドローンの登場

農業の現場では、自動操縦により耕作作業を自動化する研究や、ドローンにより生育状況を遠隔地から把握する研究が進められています。

 

これらの技術的要因に加えて、画像解析技術や人工衛星データなどの活用も進められており、デジタルとは一見遠いように思われる農業の現場では、様々な最先端技術の活用が検討されている事が分かります。

本稿の内容を踏まえつつ、次回からは具体的な取り組み事例について深堀りを進めて行きたいと思います。

 

<出展>

※1.スマート農業に関する調査を実施(2016 年) |矢野経済研究所プレスリリース

※2.スマート農業の推進― ICT・ロボット等を活用した農業の取組 ―|農業水産委員会調査室

※3.IoTを巡る技術動向と今後の展開(平成27年12月4日)|総務省情報通信国際戦略局