スマート農業(2)- ITで経験と勘を補う

第一回の記事「スマート農業(1)- 最先端の技術で農業がIT化?」では、日本の農業を取り巻く状況とスマート農業を支える技術的要因をまとめる事で、スマート農業を論じる上での前提を確認しました。
第二回の本稿からは、スマート農業の具体事例を確認する事で、農業にもたらされる変化を考察していきます。
クラウド型営農管理システム「アグリノート」
農業IoT事業を展開するベジタリアが提供する「アグリノート」は、農作業の記録・管理をサポートするSaaSで、1アカウント6,000円/年で利用する事が出来ます。
※ベジタリアは2017年9月8日、電通国際情報サービスから約5億円の資金調達を実施しています。
これまで、農作業の記録・管理はノートなどアナログな方法で行われていました。電源や有線ネットワークの設置が難しく、また、泥や埃が大量に存在する農場は、電子機器にとって劣悪な環境だったからです。
しかし近年では、バッテリー容量の増加や無線ネットワークの発達、防塵性能の高い電子機器の登場により、農場での電子機器の利用ハードルは大幅に下がりました。
また、SaaSの登場により、システムが安価かつ低リスクで導入可能となった事で、アグリノートのような営農管理システムの利用が広まるようになりました。
アグリノートでは、ただ手入力で作業記録をつけるだけでなく、以下のような機能が利用出来ます。
- 作業記録の自動集計
- 生育記録
- 農薬・肥料の使用回数(農薬別・成分別)の集計
- 航空写真を基とした圃場の管理
- グラフを用いたデータの見える化・過去データとの比較
- トレーサビリティの確保
- GPSによる行動履歴の自動取得
※機能詳細、その他機能はこちらよりご覧ください。
特に生育記録と農薬・肥料の使用回数を一元に管理出来る意味は大きく、これまで経験則に頼らざるを得なかった農薬・肥料の散布量などを、過去データとの比較により、精緻に決定出来るようになります。
また将来的には、作業記録や農薬・肥料の使用回数を生育記録と紐づいた形で蓄積する事で、生育に最適な作業、農薬・肥料の利用量をシステム的に推測する事が可能になります。
屋外計測モニタリングシステム「フィールドサーバ」
最適な作業を導く上で重要となるもう一つの要素が環境です。
同じくベジタリアが提供する「フィールドサーバ」では、日照量や温度、湿度に加え、土壌温度や土壌水分量を自動計測する事ができます。
「フィールドサーバ」により取得した環境データと「アグリノート」により取得した作業記録・生育記録を紐づけて分析する事で、各状況におけるベストプラクティスを導く事が出来ます。
更にこれを、現場の環境データや生育状況、気象予測と合わせる事で、将来的には各環境において最適と考えられる作業を高精度に導く事が可能となります。
これは、今まで経験や勘(≒暗黙知)によって行われていた農業を形式知に変換出来る事を意味し、ひいては、日本の農業が抱えていた「熟練農業者の経験と勘に基づく農業生産技術の喪失」という課題の解決に繋がると考えられます。
また、データを基にベストプラクティスの推測や、改善活動が行えるようになる事は、5~10年と言われている農業従事者の習熟期間の短縮に寄与し、後継者の育成を容易にします。
同様のサービスは、ベジタリア以外からも提供されています。
例えば、富士通が提供する「食・農クラウド Akisai」では、農業生産管理SaaSとして、作業管理用のシステムや環境データ計測用のセンサー、カメラなどが提供されている他、施設園芸や畜産向けのSaaSも提供されています。
農場での作業記録や農薬・肥料の散布記録を正確に把握することは、今後の連載で紹介予定のトレーサビリティにおいても重要な観点であり、また、どのような作業が最適か?を導く事は、農作業の自動化における大前提ともなります。
記録・計測のためのサービスは一見地味ですが、多様な気候や土壌が存在し環境の不確実性が高い日本の農業を効率化するためには不可欠な要素と言えるでしょう。