技術大国ロシアのイノベーション拠点:ロシア最大級の産業見本市が開催される都市、エカテリンブルク

この夏、ロシアのエカテリンブルクという都市で、大きなイベント(産業見本市)が開催されました。本稿ではそのイベントの様子と、産業・スタートアップ支援を行うテクノパークについてみていきたいと思います。

エカテリンブルク概況

基本情報

エカテリンブルクの位置

エカテリンブルクはロシアのほぼ中央に位置する、ウラル山脈のふもとの都市です。人口は約135万人。日本の都市と比べると、京都とさいたま市の間ぐらいの人口です。

2018年のFIFAワールドカップでは、最東端の開催地となります。モスクワからは1,500kmあまり離れており、ほぼ真東に進むので、時差は2時間。モスクワ-エカテリンブルク間の飛行時間は約2時間半なので、エカテリンブルクから出発すると、時刻は30分しか経っていないことになります。

歴史

「全ロシアに輝ける諸聖人の名による、血の上の大聖堂」 ニコライ二世終焉の地でもある。

エカテリンブルクは、ロシア革命で倒されたロマノフ王朝のニコライ二世の終焉の地でした。ニコライ二世は大の日本好きで、1891年に大津事件で被害に会われた方です。また、初代ロシア連邦大統領のエリツィンの出身地でもあり、街にはやたら立派なエリツィン大統領記念館がありました。

エカテリンブルクは、西側ロシアとシベリアをつなぐ要路である物流拠点としても重要な位置を占めます。

世界の鉱物の半分の種類が算出されるというウラル山脈もありますが、第2次世界大戦中はドイツに近いモスクワやサンクトペテルブルグ(当時はレニングラード)から攻め込まれにくいエカテリンブルクに工業施設が移設されていたという歴史的経緯もあり、ロシアの中では鉱工業の中心地となっています。

ロシアの多くの街と同様に中心地には川が流れています。街にはトラムが走り、近代的な街並みと古い街並みが混在しているようなところです。その街の中心地から車で30分くらいのところに広大なイベントスペースがあります。そこで、今年(2017年)の7月10日から13日までの4日間、イノプロム2017が開催されました。まずは、そのイノプロム2017の様子をお伝えします。

イノプロム2017

イノプロムは毎年エカテリンブルクで開催されているロシア最大級の産業見本市です。ここ数年はパートナー国が設定されており、2015年は中国、2016年がインド、そして今年2017年が日本でした。ちなみに、来年2018年は韓国が予定されています。

昨年2016年12月の日露首脳会談から始まった日露経済協力の取り組みも背景にあるためか、日本からは世耕経済産業大臣兼ロシア経済分野協力担当大臣が参加、ロシアからはプーチン大統領が参加されています。プーチン大統領の参加はイノプロム開催以来、初だそうです。

上述のとおり、エカテリンブルクは鉱工業がさかんであることもあり、イノプロムに参加している産業は、製造業(工作機械も含め)が圧倒的に多いです。ロシア国内はもちろんですが、ドイツや北欧の企業も多く見られました。製造業以外では、ドローンやVR/ARの会社などが目立ちました(ドローンを生産しているという意味では製造業ですが)。

日本は、JETROやROTOBO(ロシアNIS貿易会)が日本企業を率いて参加しています。会場の一角にはジャパン・パビリオンとして展示やブースが行われていました。また、農水省が開催していた日本酒セミナーには多数のロシアの方々が興味津々で参加されていたのが印象的でした。

ウラル・ハイテクパーク ”ウニヴェルシチェツキー”

イノプロムでROTOBOが企画してくれたツアーで訪れたのが、エカテリンブルクのあるスヴェルドロフスク州にあるハイテクパーク “ウニヴェルシチェツキー” でした。

ロシアには全土にハイテク・パークが点在しており、地域の産業、特にスタートアップの支援をしています。連邦政府や州政府の支援を受けての施設ですが、その当局の関与は場所によって随分違うようです。

“ウニヴェルシチェツキー”は、エカテリンブルクの郊外にありますが、その特色を活かし、ものづくり系が強いようです。ちなみに、名前をアルファベット表記するとUniversitetsky で、ロシア語では大学の形容詞形になっています。あえて日本語訳すると「大学的」でしょうか。こちら、ITソフトウェアはもちろんですが、エネルギー系や設備系、新素材などの研究開発、教育に注力しています。東京ドーム約11個分の51.2haという広大な土地に施設があり、注力分野に沿ったスタートアップが既に何社も入居しています。

特徴的なのは、かなり最新の3Dプリンターをはじめとしたかなり高性能の工作機械が揃えられていることです。これらを使って、入居企業などはプロトタイピングを行うことが可能です。それに加え、近隣の高校や専門学校(ロシアの学制は日本と少し違うので、だいたいそのようなものと思ってください)の学生が実習で使うことができるようです。

興味深いのは、そこで実習・訓練を受け、手に職をつけた学生たちは、ハイテクパークに入居しているスタートアップの採用候補となっていくことです。ものづくり系スタートアップにとって、しっかりした技術を習得した人材の獲得は死活問題ですから、非常に効果的な仕組みといえます。

日本でも、地方に技術に特徴のある大学を作ったけれど、その地方に就職先がないために卒業生は東京に行ってしまう、というような話を聞きます。それに対し、このウニヴェルシチェツキーでは、まずスタートアップの入居を増やし、近隣学生への技術習得機会を提供し、スタートアップへの就職を促すという流れで、地域産業の振興が戦略的に行われているとのことでした。

例えばシリコンバレーでも、スタンフォードの卒業生はまずGoogleに就職し、そこからスタートアップに移っていく、というような人的な交流が自然と生まれるようになっています。ウニヴェルシチェツキーではまだそこまでは達していませんが、シリコンバレーと似たビジョンを描けているという点では今後に大いに期待したいところです。

まとめ

エカテリンブルクという名前を聞いたことがある人は少なかったのではないでしょうか。

概要にも書いた通り、エカテリンブルクはロシアの西と東を分けるウラル山脈のふもとにあり、シベリア鉄道も通る交通の要所であり、鉱物資源が豊富で鉱工業に力を入れている土地柄です。

イノプロムで誰かがこんな風なことを言っていました。「日本は鉱物資源が少ないからこそ技術習得・開発に力を入れ、製造業を育ててきた。だが、日本で作る限り鉱物資源はどうやっても輸入に頼るしかない。もし鉱物資源が豊富なエカテリンブルクがその技術力を活用したら、製造業はまったく違ったかたちになるんじゃないか」と。

輸出入というモノのやりとりだけでない、それぞれの強みを活かした協業の可能性として、とても面白い示唆といえるのではないでしょうか。

<参考>