スマート農業(4)- 農産物の新たな流通システム

第2回、第3回では、特に生産の現場にフォーカスを当ててスマート農業を見てきました。第4回となる今回は、流通・販売に着目してICTの活用事例を見てみましょう。

食農分野における”トレーサビリティ”の担保

食農分野において重要な概念となるのがトレーサビリティです。

トレーサビリティとは、生産の段階から加工・物流を含めた最終消費までの全ての流通経路が追跡可能な状態を指します。先日、スーパーの惣菜からO157が検出されたニュースは記憶に新しいですが、このような、”もしも”の時に求められるのがトレーサビリティです。

ヨーロッパでは、トレーサビリティの担保された信頼性ある食農品がブームになっており、食農品の付加価値を高めるという観点でも重要性が高い概念です。

作業履歴や農薬・肥料の散布履歴を記帳する取り組みは以前から行われてきましたが、近年ではSaaSの登場と端末の小型化・防水防塵性能の高まりにより、より簡単にトレーサビリティを実現出来るようになりました。

生産履歴の記録を補助するシステムとして、以前にアグリノートを紹介しました。アグリノートでは、蓄積した生産履歴を生産者が見るだけでなく、システム上で発行した二次元バーコードを用いることで、消費者からも生産履歴の閲覧が可能となっています。

どのような農薬・肥料が散布されているかを公開することにより、嘘偽りのない農産物として消費者に安心・安全をアピールすることができ、信頼を得られやすくする取り組みです。

これは国内の消費者だけに留まらず、日本の農産物に対して安心・安全を求めるアジアなどの富裕層に輸出する際にも有用な仕組みだと考えられます。

農産物の新しい流通システム

ITによって、農産物の流通の仕組みを変えようという取り組みも進んでいます。

プラネット・テーブル株式会社が提供する農業流通プラットフォーム「SEND」は、生産者と飲食店の直接取引を実現するサービスです。同サービスは、こだわりを持った生産者の農産物がスマートフォンから購入できるだけではなく、朝6時までであれば注文当日に農産物を受け取ることができます。

生産者が小規模な取引を自前で行う場合、配送コストが課題となりますが、同社では取引に関わる諸手続きや保管、配送の仕組みを提供することで効率化を実現しています。

また、同社が提供する「Farm Pay」という生産者向けサービスでは、「SEND」などのサービスで売上げた代金の回収保証や入金早期化、出荷前払いに対応しており、収穫期における人件費支払いなど、生産者特有の資金需要に答えています。

和歌山のベンチャーである株式会社農業総合研究所も、農産物の新しい流通システムを作り上げようとしています。同社では、契約した農家とスーパーを繋ぎ、スーパーに設置した「農家の直売所」で農産物を委託販売する仕組みを提供しています。

従来、農産物は指定の品種・規格に則った作物を農協に持ち込み、農協がその全てを買い取る仕組みとなっていました。しかしこの仕組みでは、農家に価格の決定権はなく差別化も図れないため、収入が低く抑えられてしまいます。また、最終的な販売先も分からないため、小売店・消費者のフィードバックを得ることができないという課題を抱えていました。

そこで同社は、農家が自ら集荷場に作物を持ち込み、販売価格や販売先のスーパーまで指定できる仕組みを提供しました。この仕組みでは、農家は在庫リスクを自ら抱えることとなる一方、高収入を得ることも可能となります。同サービスは2017年8月時点で約1,000店舗、7,000軒の農家と契約を結んでいます。

フィードバックによる農作物品質の向上

これまでの品種・規格を基準とした一括買取の仕組みでは、農家は消費者にとって本当に付加価値が高い作物を生産できているか、フィードバックを得ることはおろか、規格以上の品質を実現する価値を享受することはできませんでした。

しかし、ITの発達により、小売店や消費者とより直接的な取引が可能となった現在では、消費者により付加価値を認めてもらえる作物、販売方法を追い求めることで、これまでにない高収益な農業が可能となっています。

基準だけを追い求めるのではなく、消費者のニーズの実態にあった生産が進むことで、日本の農業は国内外から高い利益を得ることができる産業として発展していけるのではないでしょうか。

 

<参考・解説>

プラネット・テーブル株式会社「SEND」紹介ページ|SEND

株式会社農業総合研究所

農産流通基盤「SEND」運営のプラネット・テーブルが4億円の資金調達、“農業×FinTech”の挑戦も|TechCrunch Japan

「日本の農業を産業化したい」 農業×ITでおいしい農産物の直販流通を実現|VentureTimes