技術大国ロシアのイノベーション拠点:モスクワで開催されたビッグイベント

連載3回目となる当記事では、筆者が実際に参加したスタートアップイベントについてレポートします。

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当連載の過去の記事はこちらからご覧ください
第1回:ロシアのスタートアップが置かれた状況
第2回:ロシア最大級の産業見本市が開催される都市、エカテリンブルク
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旧ソ連では、地方の各拠点毎に専門特化した産業が行われていた、という名残もあり、ロシアでは技術開発の研究拠点やそこから派生するイノベーションセンターが国中に点在しています。

とはいっても、やはり政治・経済の中心はモスクワです。来年のFIFAワールドカップの決勝戦は、モスクワのルジニキスタジアム(クレムリンや赤の広場の西南、モスクワ川のほとり)で行われます。ルジニキスタジアムは決勝戦に向けて改修され、周囲はアイスホッケー場などもある広大なスポーツ公園となっています。

そんなモスクワで、2017年10月に大きなスタートアップイベントが2つ行われました。ひとつは、ルジニキスタジアムのさらに西南にあるスコルコボで行われた「オープンイノベーション2017」。ロシアの政府主導のイノベーションセンターであるスコルコボで行われたことからも分かる通り、「オープンイノベーション2017」は産官学連携の一大イベントです。

もう一つのイベントが「GoTech」です。スタートアップと、ベンチャーキャピタル・エンジェル投資家などをマッチングすることを主体としたイベントで、「オープンイノベーション2017」とは真逆ともいえる内容です。

両イベントともに、筆者が実際に参加しました。この2つのイベントを通じて、モスクワのイノベーションシーンを見てみましょう。

オープンイノベーション2017

イベント概要

オープンイノベーションは毎年秋に行われているイベントで、開催地は毎年異なります。今年はスコルコボで行われました。スコルコボは、2010年にメドベージェフ大統領(当時)の提唱で作られた、教育機関と研究所、テクノパークが一体となったイノベーションセンターです。スコルコボについては、以前詳しい記事を書いたので、詳細はこちら(世界を狙うロシアの技術革新拠点・スコルコボ|日経ビジネスオンライン)をご覧ください。

オープンイノベーション2017の行われたスコルコボの会場

今年のオープンイノベーションは10月16~18日の3日間開催されました。後日の記事によると、98カ国から18,000人が参加したそうです。

日毎にそれぞれCorpTech、StateTech、HumanTechとテーマづけされ、会場内の大小10の会議室で講演やパネルディスカッションが行われます。日本からも、内閣府 IT総合戦略室から座間氏、マツコロイドなどで有名な石黒教授などが参加し、講演されていました。それ以外にもスタートアップをはじめとした各企業のブースが設けられています。

参加している企業は、ほとんどが何らかのコアテクノロジーを基に開発された製品やサービスを紹介しており、ロシアのスタートアップらしい企業が大半でした。かなり専門特化したマニアックな製品/サービスもありましたが、人が乗れるドローンや、人体を3Dスキャンして、その3Dモデルを自在に動かした動画を生成するサービスなど、一般的なテクノロジーをベースに開発されたサービスのデモも行われていました。

VR/AR分野のサービスをピックアップ

体験できた製品の中から、VR/AR分野の例を2つだけ取り上げます。

宇宙飛行士の感覚を味わえる!?「RT360」

VRの映像は日本でも色々な形で作られていますが、ロシアでも同様に増えています。その中で、取り組みとして面白い動きをしているのが、RTというロシアのメディアが行っているRT360というプログラムです。RT360のサイトに映像は一通り置かれており、VRゴーグルがあれば3Dでも映像を見ることができます。

様々な種類の映像が置かれていますが、その中には宇宙ステーションにカメラを持って行き、あたかも宇宙にいるような経験ができる映像があります。

あるいは、モスクワ航空ショーの航空機のコクピットからの映像や、スタジアムの紹介映像、サッカーのゴールポストのすぐそばにカメラを置いた映像などもありました。来年のワールドカップでは全試合の3D映像を撮影するという計画もあるそうです。

解像度の高い立体映像を確認できる、「NettleBox」

もうひとつは、ARの事例で 「NettleBox」 というサービスです。建築モデルなどをリアルな形として見ることができるVRサービスとして日本発の企業DVERSE(ディヴァース)が提供している「SYMMETRY」が有名ですが、そのAR版と言えるサービスです。

床に平行に置かれたディスプレイをARゴーグルでみると、立体的に浮き上がって見ることができます。日本でも似たようなARのサービスを見たことがありますが、それと比べ「NettleBox」の解像度はかなり高く感じました。また、ジェスチャーでズームインやズームアウト、回転などの操作をすることができます(現在は1名での閲覧しか対応していないようです)。ある部分を細かく見たいときに、直感的な操作ができるのは好印象でした。

普通に見てもただのぼやけた画像だが、ARゴーグルをかけるとかなりクリアの立体映像が見える。

その他のイベントの特徴は

展示ではありませんが、ロシアでもビットコインやICOなどは非常に大きな関心を持たれていて、多くのパネルディスカッションが行われていました。ロシアは産油国ですから電気代が安く、それを活かしてビットコインのマイニングを行う人たちも増えてきているようです。また、官製の暗号通貨を作ろうという取り組みもある一方で、ICOなどに関する規制はまだ不透明で、日本でのビットコイン関連のビジネスや政府の規制方針などに非常に興味が集まっているようでした。

GoTech

イベント概要

「オープンイノベーション」の共催組織が、モスクワ市、国策ナノテク企業であるロスナノ、ロシア最大のファンドオブファンズであるRVC、等なのに対し、「GoTech」は、GoogleやKasperskyなどのIT企業や、RunaCapitalなどのベンチャーキャピタルが主体となり開催されています。

プログラムもピッチ主体であり、日本でもよくあるスタートアップイベントの感覚に近い感じがします。「GoTech」も名前は変わりながらも2009年から毎年行われており、今年は10月12日に行われ、120人の投資家、400のスタートアップを含む1,000人以上の参加者が集まったようです。

「GoTech」のメイン会場

イベント内容

プログラムには、最近のスタートアップイベントでよくあるFireSide Chatという形式の起業家の公開インタビューや、テクノロジーごとの情報交換セッションがありました。

特徴的なのは、特定のテーマを持ったベンチャーキャピタルが仕切るピッチセッションで、デジタルヘルスやファンテク(スポーツやアーティストのファン向けのテクノロジー)、ロボティクス&AIなどのテーマがあったことです。また、それとは別にStartup Battleというピッチコンテストも行われています

Startup Battleで優勝したのは、Droice LabというAIを使った医療プラットフォームを展開している企業でした。画像などの医療情報をAIを使って解析し、医師の治療に活かすサービスです。

この会社はニューヨークとサンクトペテルブルグを拠点しており、サンクトペテルブルグにあるテクノパーク「イングリア」のレジデントです。ロシアで起業した後ある程度うまくいき、さらなる営業や資金調達のためにアメリカに拠点を設ける、という例は、ロシアのテック企業では実は頻繁に見られます。ただし、その場合も開発拠点はロシアに残っている場合が多いです。それだけ安価で良質な人材が確保できるということだと言えそうです。

「GoTech」では、「オープンイノベーション」と比較すると、比較的ライトなアプリっぽいサービス/製品も散見されました。たとえば、VC pitchという、複数のVCが集まった個別ピッチで賞をとったのは、SkyGuruという飛行機恐怖症を克服するためのアプリです。ただ、このような簡易に見えるアプリでも(日本のアプリと比べると)それなりのテクノロジーが活用されていることが多いです。

まとめ

今回は、モスクワで行われたイベント「オープンイノベーション」と「GoTech」を紹介しました。

日本でも同様ですが、ロシアでもひとくちにイノベーションセンターやスタートアップといっても、業界内の立ち位置によって、かなり幅があります。ロシア各都市では、何かに特化した産業集積を目論んでいるところも多いですが、モスクワはその全体をフォローしており、さすが、と感じます。今回紹介した以外にも様々なサービスや製品がありますので、いずれ紹介したいと思います。

<参考>
オープンイノベーション2017 公式サイト
GoTech 公式サイト
RT360 公式サイト
NettleBox 公式サイト
DroiceLab 公式サイト
世界を狙うロシアの技術革新拠点・スコルコボ