特集:スポーツ×デジタル(2) ープロ野球のデジタル推進

第1回では、ここ数年Jリーグで活発になってきているデジタルに関する取り組みをみました。第2回となる今回は、プロ野球での取り組みについてみていきたいと思います。

日本のプロスポーツ界をリードするプロ野球

野球は歴史や規模の面から、日本のスポーツを代表する存在と言えます。日本政策投資銀行によると、GDSP(国内スポーツ総生産)における日本国内の興行は2012年時点で2,843億円ありますが、野球はその半分強となる1,509億円を占めています。

(出典:『2020年を契機とした国内スポーツ産業の発展可能性および企業によるスポーツ支援』)

プロ野球は、1球団あたり70試合/年以上が開催されています。平日開催も多くある中で、各球団平均観客動員数は2万人を超えています。データを用いたマーケティングなど、デジタル活用に関してもサッカーや他のスポーツに先駆けて導入されている印象があります。

 

観客動員数の成長率が最も高い2球団

現在プロ野球の観客動員数はセ・リーグ、パ・リーグともに増加傾向にあります。2012年からの5年間で、セ・リーグでは17%増、パ・リーグでも16%増となっています。球団毎の伸び率は異なりますが、全球団が増加しています。

各リーグで一番観客動員の成長率が高かったのが、横浜DeNAベイスターズと東北楽天ゴールデンイーグルスです。

 

(出典:日本野球機構HP)

 

2球団の成長率が一番高かったのは、元々の観客動員数が少なかったことも影響していますが、これまで他の球団が行っていないダイナミックな施策にあると思います。その背景には、新規参入組でかつ運営母体がIT企業ということも大きかったと考えています。本日はこれら2球団の取り組みをみていきます。

 

蓄積したデータからメインターゲットを設定|横浜DeNAベイスターズ

2011年のベイスターズのスタジアム収容率は約50%で、半分が空席の状態でした。その後、2012年からの5年間で観客数が66%増になっています。現在はほぼ満員の状態で、スタジアム収容率は90%を超えています。

そんなベイスターズが最初に着手したのが、顧客データ蓄積の仕組みづくりです。これまでオンラインでのチケット販売は外部委託に任せていましたが、それでは顧客データを取得することができませんでした。そこで、2012年に直営のオンラインチケット販売サイト「ベイチケ」を立ち上げます。外部販売サイトと価格差をつけるなどの施策を実施し、「ベイチケ」での購入者を増やし、顧客データの蓄積を進めました。

このようにして蓄積したデータから、30代の男性客が増えてきていることが分かりました。また、アンケートやグループインタビューなども並行しておこない、2013年に球団のメインターゲットを「アクティブサラリーマン」に設定しました。熱狂的な野球ファンというわけではなく、娯楽として野球を楽しみに来ている男性をメインターゲットとしたのです。その後、「アクティブサラリーマン」にむけた施策を実施、実施した施策に対して可能な限り効果分析を行いました。こうしたPDCAを通じて、観客動員数は右肩上がりに伸びています。

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新たな領域でのデジタル活用へチャレンジ|東北楽天ゴールデンイーグルス

楽天も2012年からの5年間で、大きく観客動員数を伸ばしています。この背景には球場改修による収容人員の増加も大きく影響しています。2012年までは収容人員は23,062人でしたが、毎年改修工事を重ねて2016年には30,508人まで拡大しました。

観客席の増設にあわせて、「ボールパーク構想」の元に観客を楽しませる様々な仕掛けが施されました。特に目を引くのが2016年に左翼スタンド後方に設置した観覧車です。野球場に観覧車を設置したのは日本では前例がなく、メジャーリーグにおいても稀有な例といえます。

観覧車と同時期に導入された大型LEDビジョンのスコアボードでは、リプレイ映像だけでなく、ファンがSNSに投稿した応援メッセージを表示するなど野球以外のことも楽しめるように活用されています。

また今年の1月に、来シーズンからチケット販売にダイナミックプライシングの仕組みを導入することを発表しました。ダイナミックプライシングとは、需給によって価格を変動させる手法で、ホテルや航空券の予約に用いられています。メジャーリーグでは既に導入されているダイナミックプライシングですが、日本では今年東京ヤクルトスワローズや福岡ソフトバンクホークスが試合と席種を限定したトライアルを実施しているものの、本格的に導入している球団はまだありません。楽天の取り組みは、今後他の球団や他のスポーツ、エンターテイメント業界にも広がっていくことが予想されます。

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国内スポーツビジネスのポテンシャル

ベイスターズや楽天の事例を見てもわかるように、データドリブンマーケティングや、ダイナミックプライシングなど他の業界では定着している手法も、スポーツ業界では導入されていなかったことが多くあります。裏を返せば、スポーツ業界には成長できるポテンシャルがまだまだ残っているともいえ、ベイスターズや楽天はその可能性を示している球団と言えます。第3回では、2016年に発足したBリーグのデジタル推進について見ていきたいと思います。

 

<参考>

米スポーツ界に革命を起こしたダイナミックプライシング(上)|日経ビジネス