アパレル各社のEC戦略とEC化率(3/3)-PAL・三陽商会・レナウン

ZOZOTOWNによるプライベートブランド(以下PB)の販売に続き、同じくファッションECモールを運営するマガシークも、PBの販売をスタートさせました。
マガシーク 繊維商社と組みPBを展開、PB強化し3年後に売上の1割に|通販新聞

ZOZOTOWNもマガシークも、自社の購買履歴等のデータから、トレンドや売れ筋を割り出し、商品企画に反映していくことが可能です。データを基に顧客に響く提案が可能という点は、ECで成長してきた両社の強みと言えるでしょう。

裏返せば、これまで店舗を中心に成長してきたファッション各社も、ECへの対応と自社顧客のデータ化、およびデータ活用が必須となるでしょう。そのような状況の中、ファッション各社がどのような取り組みをしているのか、第1回は早期からECに注力してきたアダストリア・ベイクルーズ等のEC先行企業を、第2回では百貨店ブランドをメインに扱うワールド・オンワードのEC戦略を見てきました。

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第1回:アダストリア・ベイクルーズ・TSI・UAの売上・EC化率の推移と施策まとめ
第2回:ワールド・オンワードの売上・EC化率の推移と施策まとめ

第3回は、中堅ファッション企業におけるEC戦略を取り上げます。各社とも、ECを活用し先行企業との差を埋めようと試みていることが見て取れます。

売上高とEC化率のマッピング(再掲)

PAL

売上高:851億円(衣料セグメントのみ)
EC売上:73億円
EC化率:8.5%
(2017年2月期)

多くのファッションブランドを抱えるPALですが、バッグブランドのrussetや、雑貨ブランドの3COINSでご存知の方も多いかもしれません。

下記の売上グラフは、衣料セグメントのみの売上を記載したものですが、全体の売上はここ3年横ばいで推移しており、ECは増加傾向にあります。

衣料セグメントの売上・EC化率(出所:IR資料)

EC売上の内訳を見ると、ECの成長はZOZOTOWNでの売上拡大が支えていることが分かります。決算説明会資料では自社ECへの注力を掲げていましたが、自社ECへの注力度如何では、今後もしばらくは他社ECモールの力を借りながらの成長していくことになるでしょう。

チャネル別EC売上

Instagramを社員が積極活用

PALの取り組みとして面白いのは、企業ではなく、店員がSNS上の発信の起点となっていることです。PALのブランド「Kastane」の店員には、万単位のフォロワーを抱える店員が複数います。

Kastaneショップ店員のInstagramアカウント

参照(左から)
かとまり (https://www.instagram.com/mari19k/
えぐっちょ (https://www.instagram.com/eguccho02/
Miho Uesughi (https://www.instagram.com/uepoooning/

また、自社ECでは店員のランキングや、店員をモデルとした特集ページなどが掲載されています。

「顧客は広告よりも友人・インフルエンサー等のより身近な情報を信用する」という事実は、プロモーションにおいて自明の理となっています。その点、店員からの発信力は、信頼度が高く、かなり効果的な手段と言えるでしょう。

一方で、多くのフォロワーを抱える店員は他社にとっても魅力的であり、独立や転籍の誘いがあるのではないかと推測できます。

PALからすると、この貴重な資産を引き留めるための努力(高いインセンティブなど)が必要です。
※当然PALも理解しているようで、新卒採用サイトの社員インタビュー記事によれば、加藤氏(上記の「かとまり」)は、SNSの活用で表彰を受け、副賞として海外研修に行かれたようです。
PAL新卒採用サイト(加藤真梨 氏インタビュー)

店員のブランド発信力を武器にどれだけ売上が伸びていくのか、期待して注視したいと思います。

三陽商会

売上高:676億円
EC売上:42億円
EC化率:6.2%
(2016年12月期)

英バーバリーの商品製造・販売ライセンス契約が終了して以降、業績が低迷している三陽商会です。EC売上高、EC化率共に増加傾向にありますが、EC化率については店舗の売上低下による相対的な比率の上昇も影響しており注意が必要です。

2015年12月期下期は、EC売上を含む全売上を表示 (出所:IR、中期経営計画)

2017年2月に経営再建のための中期経営計画を発表し、成長戦略の一つとして、EC売上の拡大を掲げています。

三陽商会中期経営計画より抜粋

2017年7月に三陽商会より発表された進捗報告では、EC拡大に向けた多くの施策を実施・準備していることが伺えます。会社の業績が低迷していることもあり、危機感を持って改革を進めているのでは、と推測します。

三陽商会 中期経営計画 進捗報告資料より抜粋

直近の取り組みとしては、2017年12月に運送会社のヤマトホールディングスが手掛ける新サービス「Fittingステーション」の試験運用に参加すると発表しました。Fittingステーションでは、ECサイトで注文したアパレル関連商品の試着や商品の受け取りが可能です。このような先進的な取り組みに参加する姿勢から、組織文化の変革も感じさせます。

参考:アパレルECに試着&受け取り拠点を提供、ヤマトHDの新サービス「Fittingステーション」|ネットショップ担当者フォーラム

まだまだECにおいては後進であることは否めませんが、今後の取り組みにも注目できる企業です。

レナウン

売上高:676億円
EC売上:10億円
EC化率:1.6%
(2017年2月期)

三陽商会と同等の売上規模ながら、ECでの売上がより低いのがレナウンです。決算説明会資料ではEC関連の報告に数ページが割かれていますが、中期経営基本方針内ではECについて言及されず、ECへの注力度は低いと予想できます。

参考:中期経営基本方針について

出所:IR資料

余談ですが、レナウンは毎回デザイン性の高い決算説明会資料を作成しており、見ていて楽しくなります。恐らく、デザインに拘りの強い方がIR資料を作成しているのでしょう。

決算説明会資料の表紙を抜粋

参考:レナウン 決算報告

ECへの取り組み姿勢は組織図にも表れています。ECに関わると思われる「Webビジネス戦略室」はCRM部門の配下に位置しています。売上の低さも相まって、社内での存在感は小さいのではないでしょうか。

出所:レナウン社HP

三陽商会と比較すると、ECの拡大に対する本気度や勢いは見劣りますが、前号でも紹介したスーツのオーダーサービスや、シャツ・ソックスの定期購入サービス等、EC売上を拡大させるための試行錯誤は続けているようです。

D’URBAN ONLINE ORDER(オンライン上でのスーツオーダーサービス)
参考:レナウン、男性用ワイシャツや靴下の定期購入ECをスタート|ネットショップ担当者フォーラム

まとめ

これまで3回に渡り、大手・中堅アパレル企業のECへの取り組みを整理しました。

現時点でのEC売上規模の差は、ECに早期に対応できたかどうかによるものと言えそうです。その対応力は、市場や顧客の変化にすぐに反応できるか、という組織文化等も大きく影響していると感じました。「ECの売上を拡大させる!」と宣言するだけではなく、実際に売上を拡大できる体制や制度を整えることも、今後さらに差を広げる、あるいは追いつくための必須条件であると言えます。

また、今回はECの観点から各企業の取り組みを見ていきましたが、ECは接点(販路/メディア)のひとつでしかないことも認識しなければなりません。良い商品を作ることや、顧客にどこでどう伝えるかなど、他の部分が欠けていては販路のみ優れていても本質的な拡大は望めないでしょう。その点、伝え方の面でSNSを活用するPALの取り組みには非常に期待がもてます。

原価率50%を超える、高品質な商品を提供するブランド「UNITED TOKYO」を手掛ける「TOKYO BASE」や、持続可能性・透明性・ストーリー性をコンセプトに掲げ、原価を公開しているアパレルブランド「テンワイシー(10YC)」など、商品やプロモーションに強みを持つブランドも注目され始めています。今後は、ECの活用は前提として、より本質的な価値が求められていくことになるでしょう。

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