スマート農業(5)- 日本の農業の勝ち筋

これまで4回にわたりお届けしてきた「特集:スマート農業」ですが、今回が最終回です。第5回は、日本の農業を取り巻く環境に対して、どのような取り組みが行われているかを改めて整理した上で、日本の農業の勝ち筋について思考を巡らせたいと思います。

1.日本の農業を取り巻く状況への対応

第1回の「スマート農業(1) – 最先端の技術で農業がIT化?」では、日本の農業を取り巻く状況に対し、3つの対応が必要であると提起しました。

日本の農業の状況と求められる対応(再掲)

これらの対応と、現在行われている取り組みをまとめると、下記のようになります。

求められる対応 取り組みの概要
1.
暗黙知の形式知化による生産技術の保存
  1. センシング技術による精緻な環境データの取得
  2. クラウド型営農管理システムの導入による、作業データの集積・データ活用
2.
大規模化やロボットの導入を通じた生産の効率化
  1. 日本版GPS衛生「みちびき」を利用した、自動運転技術の高精度化
  2. 航空写真やマルチスペクトル撮影データを用いた、圃場単位の生育状況管理
3.
適地適作や安心安全な作物の生産による高付加価値化
  1. 作業履歴や農業・肥料の散布履歴、配送経路の公開によるトレーサビリティの担保
  2. 農家と消費者・飲食店の直接取引による、品質に対するインセンティブの向上

もちろん、制度や商習慣上の問題もあり、上記の取り組みのみで課題解決に至る訳ではありません。しかし、クラウドやセンシング技術などの発展に伴い、新たな解決の道筋が示されていることが分かります。

2.日本の農業の勝ち筋

日本では政府も国内農業の競争力強化の必要性を言及しています。では、競争力を強化するためには、どのような方向に進む必要があるのでしょうか。

多様な気候と土壌を、差異化に活かすべき

第1回でも触れたとおり、日本の国土は多様な気候や土壌を有しています。また、国土の多くを山地が占めることから、降雨量や土壌成分の偏りが非常に細かい粒度で現れており、大規模な農業の実現にとって高いハードルとなっています。

耕作機械の高精度な自動化(上記表2-a)により、ある程度の効率化は望めると思われます。しかし、広大な土地をベースに、超大型の耕作機械や飛行機による農薬散布で効率化を図るアメリカやオーストラリアの農業にコスト面で勝つことは容易ではありません。

一方で、付加価値の向上という点においては、多様な気候や土壌はプラスに働きます。

近年、Bean to barと呼ばれる、カカオ豆を仕入れてから焙煎・チョコレートへの製造までを一つの工房で行うスタイルが人気を博しました。その多くは、カカオ豆の産地別にチョコレートを製造することで、差異を楽しむものとしてアピールしています。

また、ワインにおいてはテロワールとして土壌から来る味わいが語られており、また、日本でもコーヒーなどを産地ごとの差異を感じながら楽しむ消費者は一定層存在すると思われます。

これらの事例を踏まえると、産地ごとの差異を楽しむ文化に対して、日本の多様な気候と土壌は大きなポテンシャルを秘めている、と言えます。

付加価値をつけるために、先進国から学べること

産地ごとの差異を「付加価値」に変えるためには、品質を担保する必要があります。そのためには、作物・農業製品ごとに「産地のブランド化」や「格付け」を行うことが求められます。

この点において先進国であるフランスでは、「原産地呼称統制法(AOC)」により、栽培方法や製造過程、品質評価が行われるなど、産地をブランド化するための厳格な制度化がなされています。また、ワインの産地においては、産地ごとの格付け(ボルドーにおける等級付けなど)がなされており、価格を決定する重要な要素の一つとなっています。

国内においても、これらの制度を代替する手段として、産地や生産/物流過程などをシステム的に公開することにより、品質を担保することが出来ます。また、生産者が産地ごとの”差異”の明確化を意識した生産を行うことによって、国内作物においても、より違いを楽しむ環境を醸成できると考えます。

上記の取り組みを実行できれば、各気候・土壌の差異を「付加価値」に変え、農業の競争力を強化する一つの方法となるのではないかと期待しています。

3.スマート農業のまとめ

これまで全5回に渡ってお届けしてきた「特集:スマート農業」、いかがでしたでしょうか。

デジタル化が進む社会において競争力を強化するためには、まずはデジタルのトレンドや、デジタルにより可能になったことを理解することが重要です。その上で、既存産業を見直し、新たな課題解決の道筋を見つけることが求められています。

農業における近年のデジタル化の背景の一つとして、今まで仕組み化が進んでいなかった領域に対し、ハードウェアの小型化・防塵性能の向上、取得・分析出来るデータ量の増加などを起因とし、システム導入が増加したことが挙げられます。このデジタル化をチャンスと捉え、競争力強化に結び付けるための試行錯誤が必要です。