全日空(ANA)におけるデジタル活用

「携帯電話やその他電波を発する機器は、飛行機の通信システムや運航システムの妨げとなる恐れがございます」

筆者が子供のころ、このようなアナウンスが流れ、携帯電話の電源を切っていたことを覚えています。しかし現在では、飛行中の機内でも専用Wi-Fiによるさまざまなサービスを利用できるようになりました。

全日空(以下ANA)は、2018年4月から国内線のWi-Fiを無料化します。

ANAのサイトを見ると、Wi-Fi接続により、インターネットの他にもテレビやショッピングなど、様々なエンターテイメントコンテンツを楽しめることがわかります。

ANA Wi-Fi Service|ANA

JALは、2016年4月より段階的にWi-Fi無料化を進めており、2017年2月に完全無料化を行っています。今回のANAのWi-Fi無料化は、サービスを競合と同レベルに引き上げる目的もあると思いますが、果たしてそれだけが目的なのでしょうか。今回は、ANAにおけるデジタル活用をみていきます。

予約サイトからコミュニケーション・サービスへ、デジタルの役割が変わる

手続きや機内サービスをデジタル化

先日、ユナイテッド航空を利用する機会がありました。同社ではスマホアプリを用いてオンラインでチェックインができます。受託手荷物がない場合は、空港でカウンターに並ぶ必要がなく非常にスムーズです。アプリで発券した電子チケットはiPhoneの Walletに追加することができ、国内線であれば、飛行機への搭乗までスマホ一つで済ませることができます。

搭乗後は、スマホを使って映画・ラジオなどの機内エンターテイメントを無料で視聴することができます。また、アプリで航空チケットの購入もできるので、定期的に飛行機を利用する方には非常に便利です。

以上の通り、チェックインから搭乗、機内サービス、そして次回のチケット購入までの一連のコミュニケーションをすべてデジタルで行うことができるのです。筆者も、空港に向かうタクシーの中でチェックインを行い、スマホでメールチェックをして搭乗時間を待ち、スマホでチケットを見せて搭乗しました。国際線利用時はパスポートを見せる必要がありますが、ほぼ全ての手続きがスマホで完結する体験は、言葉以上に気持ち良いものです。

これらの機能は、JAL・ANAも提供しています。

■各社のサービス状況

ANAマーケティング室マーケットコミュニケーション部デジタルマーケティングチーム冨満康之氏は、デジタルの位置づけが「予約サイト」から「コミュニケーションを図る」「サービスを提供する」に代わってきたと述べています。

以前であれば「デジタル=予約サイト」という捉え方で、チケットの予約機能を開発・改良していけばよかった。しかし、現時点では国内予約の約9割はウェブ販売に移行しており、機能を研ぎ澄ますだけでは、飛躍的な売り上げ増加は見込めません。一方でお客さまに目を向ければ、たとえばスマートフォンのようにデジタルの進化・拡大は、もはや無視できない状況となっています。

航空会社はお客さまを移動させる役割を果たしますが、その移動中、常にネットにつながるスマートフォンがお客さまの手の中にある状況は、我々にとって、お客さまとのコミュニケーションのあり方を変えたり、新しいサービスを開発する可能性につながっています。エアラインビジネスにとって、デジタルは親和性が高く、顧客の情報を取得した上であらゆるタッチポイントを通じて接していきます。デジタルの役割が「予約を受け付ける」ことから、「コミュニケーションを図る」「サービスを提供する」ところに変わってきているのです。デジタル軸でコミュニケーション戦略を考え、マーケティングの成果につなげていく。それが、デジタルマーケティングチームが今後担っていかなければならない役割なのだと考えています。

出所:目指すはサービス提供の場としてのデジタルチャネル活用─ANA デジタルマーケティングチームの新たな挑戦|宣伝会議

顧客とのコミュニケーションツールとしてデジタルを積極活用するのがトレンドのようです。

では、デジタルを活用してコミュニケーションをとる目的は何なのでしょうか。ANAは、航空輸送事業における顧客囲い込みに限らず、より幅広い活用を考えています。

ANA経済圏-顧客データを使った、さらなるサービスの深化

2016年10月21日、ANA ホールディングスは顧客関連事業を担うANA X株式会社を設立しています。設立時のプレスリリースでは、ANA経済圏の確立を目指すこと、搭乗データに限らずあらゆるシーンにおける顧客データの集積・分析によるOne to Oneマーケティングの実現とその事業開発に取り組むことが宣言されています。今後、顧客データを使ったサービスの深化が期待できます。

ANAグループの顧客関連事業を担う新会社「ANA X株式会社」を設立|ANA HD

2018年2月に発表された「2018-2022年度ANAグループ中期経営戦略について」でも、「既存事業の選択・集中と新たな事業ドメインの創造」としてANA Xを中心にANA経済圏の拡大を目指すことが宣言されており、同社においてデータ活用が重視されていることがわかります。また、ICT技術とオープンイノベーションを活用し新たな価値を創出するとも宣言されており、更なるデジタルの活用が期待されます。

2018-2022年度ANAグループ中期経営戦略|ANA HD

定期的に飛行機を利用する顧客層が限られることを考えると、グループがもつ他事業への活用は理にかなっています。また専門会社としてANAから切り出すことで、データ活用事業にドライブがかかります。

現在ある金融事業や商社事業での活用だけでは顧客囲い込みサービスとしてまだまだ足りないので、今後どのようにサービスを深化させていくか期待したいと思います。ANAの2016年度の売上高は1兆7,652億円※1、マイレージ会員は2009年時点で2,000万人※2を超えています。資本と顧客基盤の双方を持ち合わせたANAグループのデジタル活用施策は他業種でも参考になることが多いと思います。今後彼らがどのようなサービスを生み出すのか継続してウォッチしていきたいと思います。

また今回は情報が公開されていないため、JALの動きを捉えることができませんでした。こちらもウォッチしていきます。

※1 2016年4月1日~2017年3月31日、出典:ANA有価証券報告書
※2 出典: ANAマイレージ戦略|ANA